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第189話

瑛介はその言葉を放った後、無言で足早に病院の上階へと向かった。

奈々の指示で平を引き止めようとした友人たちは、瑛介が戻ってきたのを見て足を止めた。

「宮崎さん、あの、奈々が......」

しかし、彼女たちが言葉を口にする前に、瑛介は彼女たちを無視して通り過ぎた。

弥生との口論のため、瑛介の機嫌は悪くて、顔色も険しかった。

彼から放たれる冷気に、彼女は凍りつき、その場から動けなくなってしまった。

瑛介は何かを察したのか、急に足を止め、彼女に視線を向けた。

「お前、まだここにいるのか?」

瑛介の冷たい視線に、瀬玲はその場で身を縮め、どう答えるべきか戸惑った。

「瑛介」

遠くから奈々の声が響き、彼らの注意を引いた。

みんながその方向を振り返ると、奈々が裸足で、慌てた様子でこちらに駆け寄ってくるのが見えた。彼女の額の包帯には血が滲んでおり、その姿は痛々しかった。

「奈々、なんで下りてきたの?医者は安静にしていろと言っていたじゃないか」

奈々の友人たちは彼女に駆け寄ったが、瀬玲だけは動けずにその場に立ち尽くしたままだった。

瑛介は冷たい視線を奈々に向けたまま、彼女が額の傷を見せると少しだけ表情が和らいだ。

「どうして下りてきたんだ?」

奈々は瀬玲に視線を送った後、少し慌てた様子で言った。「さっき、彼女たちが平と少しトラブルになったと聞いたの。彼が怒って帰ったと聞いたから、私が代わりに謝ろうと思って来たの」

その合図を受け取った瀬玲は、そそくさとその場から逃げ去った。

彼女が去った後、奈々は苦笑いを浮かべて言った。「瑛介、あなたの助けを借りたのに、私の友人たちがこんなことをしてしまって、本当に申し訳ない」

瑛介は黙って彼女を見つめ返した。

瑛介は元々無口で冷淡な性格で、今のように何も言わずただ静かに見つめられると、まるで川の底に沈むような冷たさがあった。

奈々は必死に謝りながら、瑛介の冷たい視線がまるで自分の全てを見透かしているかのように感じて、びっくりした。

弥生が何か彼に吹き込んだのではないかと疑念が膨らむ中、奈々の目には涙が溢れて、頬を伝った。

彼女は瑛介の袖を掴み、弱い声で訴えた。「瑛介、怒っているの?今日のことは、私がすぐに止められなくて、あなたを失望させたのよね?でも、あの時、私は本当に驚いただけなの、あんなことを瀬玲が
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